(1)目的が違う

「24時間シート」を導入する際に注意しなければならないのは、ケアプラン(「ケアプラン」、「介護サービス計画」、「個別援助計画」等)と言われるものと、「24時間シート」を使用するときのそれぞれの違いが不明確なために重複した情報になっていたり、相違していたり、場合によっては誤った使い方をしてはいないかということです。

「介護サービス計画」と「24時間シート」の違いは、作成にあたってインプットされるものが違います。前者はニーズに基づくもの、後者はデマンドやウォンツに基づいているものが含まれている点が大きな違いです。

そもそも両者は使用目的が異なり、書式の形態や記載事項も大きく異なりますが、両者の違いを正しく認識していないと「介護サービス計画や従来の個別援助計画」と「24時間シート」のどこが違うのか、両方共必要なのか、といった見方が出てくることになります。

「介護サービス計画」は、利用者の生活や心身の状態の維持と改善の必要性に向けてどのようなことが必要かを明確にし、計画を立て、実施した結果を評価・見直しするために作成されるものです。

一方、「24時間シート」は「介護サービス計画」で取り上げられたものも含めて、利用者の24時間(1日)の生活を、時間を追って、起床から始まる日課の項目に沿って、それを「どのようにしたいのか」「どこまでのことが自分では出来」「どのようにサポートして欲しいのか」を表し、介護職員がすべきことを注意点も含めて記載したものです。質の高いケアプランとも言えます。利用者の24時間の暮らしを知らずに、個別ケアは成り立たないものであり、「24時間シート」は個別ケアには必須のものです。

目的の違い
介護サービス計画 ニーズ 心身の状態の維持と改善の必要性
24時間シート デマンド 「どのようにしたいのか」「どこまでのことが自分では出来るのか」「どのようにサポートして欲しいのか」

(2)計画性に差がある

「24時間シート」の考え方に基づかないケアやサポートは、『ニーズ』に対するプランとプランを実施するための仕事の計画が中心になっています。いわゆる「排せつ介助」、「食事介助」、「入浴介助」といわれる介護サービスは『ニーズ』に対応するケアでありサポートです。

『ニーズ』については十分なアセスメントをもとに計画され、今必要なことだけではなく将来に向けての必要性や改善目標・課題にも及んで考えなければならないものです。それがケアプラン、介護サービス計画という名称で作成されているもので計画として作成されたものです。

これに対し『デマンド』は、単に利用者が希望しているレベルの事柄という見方をしているために、ケアプランや介護サービス計画のようには“自分はどこまで出来て、どこから先のケアやサポートが必要なのか”については計画化されていません。それは課題や目標ではなく生活場面のこだわりや好みであるため、計画化されていないのかもしれません。計画化されていないため、職員がその情報をもとに行動することにつながりにくく、個別に承知している職員だけが個別に対応していくしかない状況にあります。(「24時間シート」という名称ではなく、こうした個別の要望やこだわり的なものを書き留めた情報をもとに仕事をしている施設はもちろんありますが)

例えば、“テレビで時代劇を観たいけど、自分ではテレビ番組を選んで、その時間を覚えていて、テレビをつけることができない”というのは、“必要なことのうち何が出来なくなったのか”という『ニーズ』に基づくケアの計画(介護サービス計画や個別援助計画)にはおそらく出てこないと思います。介護サービス計画や個別援助計画が、課題や目標あるいは介護上のニーズを中心に計画されるものなので当然と言えば当然です。しかし、この利用者にとってテレビで時代劇を観たいが、一人ではそれが出来ないとすれば、“入居者自身の意志によって普通の生活を介護施設で実現させたい”との思いや、“入居者が自由に自分らしく暮らす”ことにならなくなってしまいます。

こうした類のことについても、いつ、だれが、どのようにサポートして、利用者の『デマンド』に応えたらよいのかが計画化されていなければなりません。これが「24時間シート」の大きな役割です。

入居者一人ひとりのことを十分把握したうえで「24時間シート」として計画化され、必要に応じてサポートするための一人ひとりの望む暮らしの情報を職員が共有し、介護者による差の無い介護ができるよう周知徹底していくことが実現できるのです。

ところが、同じような利用者のこだわりや要望でも、“食事をする際につけるエプロンに柄が入っているとこぼれた食べ物と紛らわしいから無地の色のエプロンをしたい”というのは、食事の介助と言う『ニーズ』に関連したこだわりなので、純粋な『デマンド』とは言えません。こういった内容は、「介護サービス計画」の中で食事介助のニーズの一部分として計画化されている場合もあります。

計画性の程度とその理由
ニーズ 計画性(○)   課題であり、目標があるから
デマンド 計画性(△) 「こだわり」や「好み」であるから

以下の例は『ニーズ』に関連した『デマンド』が計画化されているケースです。

【例1】

“ポータブルトイレに使うトイレットペーパーは、シングルロールだと紙を引き出しにくいのでダブルロールにしてほしい”というこだわり的要望は、やはり目や指先が利かなくなったために、自分で出来る範囲のことに対するある種のサポートなのですが、これも排泄介助という『ニーズ』に関連したこだわり・要望にあたり、純粋な『デマンド』ではありません。課題や目標に関連した計画に落とし込まれるものではなく、個別援助計画の中で計画化しておく種類のものだと言えます。

ニーズ ニーズに関連したデマンド 介護サービス計画
排泄介助 トイレットペーパーの種類 ダブルロールのトイレット
ペーパーを使用する

【例2】

朝食時の要望として、“朝食時には梅干しを必ず食べたい” “ご飯のお茶碗半分には最後に味噌汁をかけて食べたい”ということが聞き取りシート(ヒヤリングシートなど)の情報から「24時間シート」へ記載して実施する場合、もしこの利用者のケアプランに「食事摂取の意欲低下の改善と嚥下機能の低下による誤嚥防止」が課題として掲げられており、これに沿った食事提供と食事介助計画が「介護サービス計画」の中で、“香辛の効いた食べ物による食欲増進、酸味食や汁物摂取時の誤嚥の注意”があがっていたとしたら、『ニーズ』としての「介護サービス計画」と、『デマンド』としての「24時間シート」の記載に基づいて、職員がこれに沿って食事のケアをしたり、こだわりや要望に対応することができます。

ニーズ ニーズに関連したデマンド 介護サービス計画
誤嚥防止
食事意欲低下の改善
香辛の効いた食事 酸味食や汁物摂取時の注意

【例3】

“麻痺の改善を機能訓練プラス趣味の活動を通じて行っていく”という課題・目標となっている利用者の「24時間シート」に載っている、

  • ①午前10時から20分間:「PTによる機能訓練」
  • ②午後3時:「趣味の書道を自室で行う」

という日課は、

①はケアプランから落とし込まれた介護サービス計画としての機能訓練という日課であり、②は余暇活動と言うケアプランの課題に結び付けて行われている日課が記載されているものです。

また、②の書道という趣味活動には「こだわりや要望」「自分で出来ること」「サポートが必要なこと」としても併せて記載することになります。この例で言えば、机や書道用具の準備などのサポートが必要なことや、“落ち着くために部屋のカーテンは全部閉めてほしい”などのこだわりも記載されます。

ニーズ ニーズに関連したデマンド 介護サービス計画
麻痺の改善
  • 趣味の書道がしたい
  • 習字の際に部屋のカーテンを閉めてほしい
  • PTによる20分の機能訓練
  • 書道用具の準備
  • 部屋のカーテン閉め

このように、「24時間シート」にはケアプランや介護サービス計画に基づく『ニーズ』に関する日課と、それ以外の日課が時間を追って記載されているので、これを一人の利用者の日課としてとらえ、同時に目的の異なる内容だという視点で対応しなければなりません。

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